参考資料:旧lore

LoLユニバースからの転載です。「今はこうだが、かつてはこういう物語があった」という記憶の為に。

大幅リワークによりストーリーの変更が入ると予定されたチャンプについての記載をしています。

イレリア(パッチ8.6)

イレリア
剣の遺志
ルーンテラ広しといえども、アイオニア人の編み出した武術――これも悟りを追求する中で生まれたもの――ほど美しく、危険なものはないだろう。しかし、彼らの最も優れた剣術は意外にも、外敵の侵略の副産物として生み出されたものであった。
リト導師は、数々の都市国家の支配層から教えを乞われるほどの名剣士だった。彼が振るった剣の技は門外不出の秘剣であったが、言い伝えによれば、導師が手にした剣には命が宿ったという。惜しむべきことに、導師はルーンテラ中の名医をもってしても治療法の見つからぬ謎の病に侵され、息子ゼロスと娘イレリア、そしてこの世に二つとない不思議な武器を遺してこの世を去った。その息子ゼロスはやがてアイオニア軍の軍曹となり、ノクサスによるアイオニア侵攻のまさに直前、デマーシアに支援を求めるべく旅立つことになった。ゼロスが戻るまでの間、故郷の防衛を託されていたのはイレリアであったが、ノクサス軍が攻め入ってきた時、彼女はほぼ孤立無援での応戦を強いられた。
アイオニアは実に果敢に戦ったが、時を待たずして大地は夷敵の軍靴に踏み荒らされ、アイオニア人の血で赤く染まった.プラシディウムの死闘」においてアイオニア人は降伏の準備さえしていたが、若きイレリアが父の形見の大剣を掲げて現われ、ゼロスが帰還するまでの徹底抗戦を誓ったことに勇気づけられて、決死の防戦を繰り広げた。しかしイレリアは乱戦のさなかに、ノクサスの邪悪な死霊術によって呪いをかけられてしまう。
彼女の命の灯火が消えいく中、その場に居合わせた星の子ソラカは、薄れゆくイレリアの魂を現世に繋ぎ止めんと最後の試みを行った。かくして故郷を想う一念とともに、イレリアは死の淵から蘇ったのである。その傍らには、今や彼女の魂と深く結びついた父親の剣が浮かんでいた。イレリアは宙に浮かぶようになった剣に動揺することもなく、すぐさま戦場へと舞い戻った。剣は彼女の周囲を軽やかに舞い躍り、恐慌をきたしたノクサス兵を次々と斬り捨てていった。そして予期せぬ大打撃を受けた侵攻軍は、プラシディウムからの撤退を余儀なくされ、イレリアは故郷を勇敢に守った功績により、アイオニアの防衛隊長に任命された。

アカリ(パッチ8.10)

short

「『影の拳』は、死の陰にさえも紛れて打ち出ずる。人よ、決して均衡を乱すことなかれ」~ アカリ
格闘の天才であるアカリは「均衡の守人」と呼ばれる武闘結社のメンバーだ。彼女は母親の跡を継いで「影の拳」となり、故郷の均衡を乱そうとする者たちを排除する神聖な任務を果たしている。彼女が取る手段は苛烈すぎると言う者もいるが、アイオニア全体の均衡を保とうとするアカリの決意に揺るぎはない。

long

アカリ
影の拳
アイオニア諸島には、古代から受け継がれてきた万物の均衡を保つことを務めとする組織が存在する。秩序、混沌、光、闇――彼らの教義によれば、森羅万象の完全な調和こそが、宇宙の正しき在りかたであるという。「均衡の守人」と呼ばれるその組織は、自らの大義を為すために「影の戦士」と呼ばれる三人衆を擁している。アカリはその一人であり、「大樹の剪定」、すなわちヴァロランの均衡を乱す者の抹殺という使命を負っているのだ。

先代「影の拳」の娘として、アカリは拳を握れる歳になるやいなや、母による修行を課せられることとなる。修行は苛烈を極めたが、それは全て「為すべきを為さん」という組織の原理に基づくものだった。14歳で「均衡の守人」への入団を果たした時、アカリはすでに垂れ下がる鎖を手刀で斬り落とすことができたという。彼女が母親の跡を継いで「影の拳」の座に就くことに、疑念を挟む余地はなかった。「影の拳」として、アカリは他の者であれば良心が苛む任務をいくつもこなしている。しかしそれは、彼女にとっては母親に叩き込まれた不可侵の教義を順守することでしかなかった。現在アカリは、同胞であるシェンとケネンの二人と共にヴァロランの調和のために暗躍している。

ヌヌ

short

「ウィルンプとボクには広大な世界が待っているんだ。邪魔をしないで!」~ ヌヌ
ヌヌとウィルンプは不釣り合いな組み合わせに思えるが、恐れ知らずな少年がイェティの背中にしがみついてフレヨルドの山の中を陽気に歩き回っている姿は、多くの旅人に目撃されている。ヌヌは獣を手なずけることには成功したが、ウィルンプの空腹感までは手なずけることができず、常に貪欲な飢えを原因とする怒りを抱えている。この両者を引き離そうとした者もいるが、彼らはどんな鎖よりも固い友情の絆で結ばれており、いつまでも大自然の中で冒険を続けている。

long

ヌヌ
雪男を駆る少年
友情は、ときに家族以上の強い絆をはぐくむ。そうした絆が、恐れを知らない少年と獰猛なイエティを結びつける時、二人は無視できない存在となる。凶暴なイエティの調教を任されたヌヌは、普通であれば鎖を使って従順させるところを、友情で信頼関係を築き上げてみせた。今やヌヌとずんぐりむっくりの相棒ウィルンプは一心同体であり、少年の若さゆえの情熱と、イエティの荒々しくも神秘的な力を武器に、あらゆる試練を乗り越えているのである。

ヌヌは両親のことをおぼろげにしか覚えていない。物心がついた時には既に、閉鎖的なフロストガード族の一員になっていた。脱走癖のあるヌヌは、乳母たちにとって手に余る子どもだった。また、憐憫の情が強すぎるあまり、部族の長老たちともよく対立した。少年はいつも薄暗いフロストガード砦の先にある世界を夢見ていたが、時には夢見るだけでは飽き足らなかったため、また大人たちを困らせることになった。やがてヌヌは部族の猛獣使いに弟子入りし、獣たちの世話を任されるようになったが、そうした隔たりがいよいよ決定的になってしまう。

フロストガード族はフレヨルドの様々な野生動物を調教して囲っていたが、中でも珍しい動物が、その神秘的な能力と荒々しい怪力で知られる希少生物――イエティだった。猛獣使いの教えによると、この凶暴な獣を飼い馴らすには、わずかな草のみを与えて定期的にムチ打つしかないという。ところが世話を続けていくうちに、ヌヌはイエティがちっとも獰猛な怪物ではないことに気がついた。

ヌヌはそのイエティにウィルンプと名付け、新しい友達とした。粗末な食事で日に日にウィルンプが弱っていくのを見かねたヌヌがこっそり肉を与え始めると、ウィルンプはみるみる元気を取り戻していった。ところが猛獣使いの話とは違い、凶暴性の片鱗すら見せない。ヌヌは、イエティが危険ではないことを師匠に訴えようと考えたが、運命はそれを許さなかった。次にヌヌが食事を持っていった時、ウィルンプの檻は破壊されていたのである。檻の中に残されていた拙い絵が、ウィルンプからの別れの挨拶だった。ヌヌはすぐさま友を追いかけ、荒野の中へと駆けだした。

ヌヌがようやく追いついた時、ウィルンプは猛獣使い旗下のフロストガード戦士団に取り囲まれていた。このままでは友が殺されてしまう――思わず両者の間に割って入ったヌヌに、残忍な師のムチが容赦なく振り下ろされる。そして怒り狂った猛獣使いが再びムチを振り上げたその瞬間、ウィルンプの心の中で、それまで感じたことのない怒りが膨らんだ。あれほどひどい目に遭わされていながら、このイエティが怒りを爆発させたきっかけは自分の保身ではなく、自分に親切にしてくれた少年を守るためだったのである。そうした思いが、ウィルンプに最後の一線を超えさせた。逆上するウィルンプを前に、猛獣使いはなすすべもなく、気がつけば血まみれになって雪原に倒れていた。

激怒するウィルンプに恐れをなし、フロストガード族の戦士たちは我先にと逃走した。もはや後戻りはできないと悟ったヌヌは、男たちが戻ってくる前に逃げろと、ウィルンプに怒鳴った。だが、ウィルンプに少年を置いていくつもりは微塵もない。ヌヌは難しい決断を迫られていた――たった一人の友を見捨て、フロストガード族と閉鎖的な暮らしを続けるか。あるいは過酷な外界へと飛び出し、唯一の故郷を捨て去るか。選ぶべき道は一つしかなかった。

エイトロックス

エイトロックス 殺戮の古代戦士

short

「名誉のためだろうと、栄光を求めてだろうと関係ない。戦いさえすればいい」~ エイトロックス
古代のダーキンの一人であるエイトロックスは、かつては比類なき剣の使い手であり、血みどろの戦場の混沌を大いに楽しんでいた。しかし、彼は敵の魔法によって自身の剣の中に封じ込められ、数千年の間、この剣を使うのにふさわしい宿主が現れるのを待っていた。そして現れた定命の戦士が生きる武器によって穢されて変質した時、エイトロックスは復活した。ダーキンの物語は今では遠い昔の伝説となっているが、彼は自分の種族が滅ぼされた時のことを今でも鮮明に覚えており、振るう剣に燃える復讐心を込めながら戦い続けている。

long

伝説の戦士エイトロックスは、「ダーキン」の名で知られる古代種族の残された最後の五名の内の一人である。彼は巨大な剣をやすやすと振るい、見る者を魅了する優美な太刀さばきで敵の軍勢を次々と斬り捨てる。その剣はまるで生きているかのごとく、敵をほふるたびに生き血をすすり、使い手にさらなる力を与え、残酷かつ優雅な殺戮に駆り立てるのだという。

エイトロックスに関する伝承は、現存する最古の記録にまでさかのぼる。それによれば、かつて二つの大勢力が争う戦争があったという。「保護領」、そして「魔法王国」という名称のみが伝わるこの二大勢力は、長きにわたって戦乱を続けていた。やがて、魔法王国の度重なる快進撃により戦の趨勢は明らかなものとなり、彼らが宿敵をせん滅するのはもはや時間の問題と思われていた。最後の戦いに臨む保護領の兵士たちは疲弊しきっており、装備は不足し、数の上でも劣勢に立たされていた。

すべての希望が失われたかに見えたそのとき、保護領の陣営に突然姿を現したのがエイトロックスだったといわれている。彼は兵達に向かって「命の限り戦い抜け」とだけ言い放つと、単騎で悠然と敵軍に向かっていった。まるで剣と一体となったかのように、次々と敵を斬り倒していく謎の勇士の姿は、絶望の淵にいた兵達を鼓舞した。はじめのうちは誰もが言葉もなく見とれているばかりだったが、やがて彼らに得も言われぬ強い戦意が湧き起こったのである。兵士たちはエイトロックスに続いて再び戦いに身を投じると、それぞれが一騎当千の力を発揮し、奇跡の反撃に成功したという。

この戦いの後、エイトロックスは姿を消したが、保護領の兵士たちの間に生まれた戦意が薄れることはなかった。驚異の勝利を収めた彼らはその後も次々と勝利を重ね、ついに故郷への凱旋を果たした。同郷の人々は彼らを英雄に祭りあげたが、しかし自らの文明を滅亡の危機から救った戦士たち一人一人の心には、消えることのない闇が残っていた。彼らの中で何かの箍が外れてしまったのである。戦いの記憶は次第に薄れ、後には残酷な事実だけが残った。英雄と称えられた彼らも、結局は非道な殺戮行為に手を染めたに過ぎなかったのだ…。

こうした伝承は、各地の神話に数多く見受けられる。そのすべてが史実であるとするなら、エイトロックスは歴史の分岐点となる大きな戦いの結末を幾度となく書き換えたことになる。物語の中のエイトロックスは、苦境から民を救った救世主として描かれている。しかし彼が本当に成し遂げたのは、戦乱と闘争に満ちた世界の創造だったのかもしれない。

ケイル(8.19)

short

「正義は疾き翼に乗って現る」

~ ケイル
一族の中で最強の偉大な勇者であるケイルは、救いようのない悪を浄化することに人生を捧げた天使のように美しい戦士だ。紛争によって一族が分断されたことで、彼女は秩序を守るために自らの血と肉体を犠牲にして魔法の鎧と炎の剣を身に付けた。ケイルが戦場に降り立てば、裁きは速やかに行われる——神聖なる正義の怒りの光から逃れられる者はいない。

long

いにしえの戦いが未だに続く、はるか遠い世界において、ケイルは偉大な勇者であり、不死身の一族の中でも最強として知られた彼女は、神出鬼没な悪を討ち滅ぼすことにその身を捧げてきた。ケイルは一万年もの間、時の始まり以前に鍛え上げられたという燃えさかる剣を手に、休むことなく同胞たちのため戦い続けた。神秘的な力で彼女の優美な体躯を守る甲冑は、すでに絶滅した職人の種族が造り上げた現存する唯一の傑作である。そして息を飲むほどの美貌を持ちながら、戦争によって心に刻まれた深い傷を覆い隠すために、ケイルは今も昔も顔を見せることを避けていきたのである。勝利を追い求める中にあっても、ケイルは幾度となく、心の歪んだ者たちを悪の泥沼から救い出そうとした。それでも、救済の余地もなく、排除せざるをえなかった相手のほうが遥かに多かった。ケイルにとって、正義の横顔はあまりに醜いものなのである。

十年前、ケイルは邪悪との戦いに勝利しかけていた。しかし、一族の鼻つまみ者であった反抗的な妹モルガナが、突如としてケイルと一族を屈服させ得る強力な力を得たのである。彼女自身の世界を救うため、ケイルは炎の剣を自らの妹に向けることを余儀なくされた。こうして両者の間には永遠の亀裂が生まれたのである。

モルガナ(8.19)

short

「ケイルの横暴が続くかぎり、私が戦いの手を休めることはないわ」

~ モルガナ
復讐に燃えるモルガナは、苦痛と闇の魔術を扱う力がある。かつては優雅な光の存在だったが古代の紛争中に魂を破壊され、同族から引き離された後に現在の残酷な拷問者へと変わった。必ずとどめを刺して復讐を遂げられるだろうーーという予言を支えに、飽くなき力への欲求と共に待ち続けている。

long

ルーンテラから遠く離れたある世界には、気高く、美しく、翼を持った不死の者達が住んでいる。そこでは古よりの争いが未だ収まることを知らず、また多くの争いがそうであるように、その争いもまた血族を引き裂いてゆくのだった。一方の勢力は、自らが完全な秩序と正義の擁護者であると主張し、法と中央支配による統一を目指して戦っている。もう一方の、この方針に異議を唱えた者たちは、彼らを大局の見えぬ圧制者と見なし、合理性や安全という幻想を建前にして、個性や自由を殺そうとしていると断じた。モルガナもまた、同胞たちの行いを圧制と見なし、その支配に反旗を翻した咎で「堕天使」の烙印を押された者たちの一人だった。しかし、これにおとなしく屈する彼女ではなかった。失われた技術を研究し、禁断の力を得たモルガナは、恐るべき闇の魔術の達人となったのである。彼女をここまで駆り立てたものは、敵側で将軍を務めている実の姉、ケイルに勝ちたいという激しい渇望であった。

ケイルとモルガナは実の姉妹であったが、かつてモルガナがケイルの陣営につくことを拒んだため、ケイルのほうから絶縁したという経緯があった。以降、モルガナは次第に強大な力を蓄え、ケイルに匹敵するどころか、彼女を脅かす程の存在となる。それでも、モルガナは公平な戦いなど求めていなかった。彼女は身を潜め、さらに力を伸ばし、来たるべき最後の対決に備えている。最初に袂を分かったのがケイルだったとしても——最後にとどめを刺すのは絶対に自分なのだと。

パンテオン(パッチ9.14)

 

「真のチャンピオンを連れてこい。できぬなら、貴様のような輩100人でも構わん。そうすれば、末永く語り継がれる戦いになるだろう」

~ パンテオン
パンテオンとして知られる比類なき戦士は、何人も止められぬ戦の権化である。彼は、霊峰ターゴンの斜面に住む好戦的な部族、ラッコールの民として生を受けた。険しい山を登頂し、その真価を認められると、この世における戦の神髄の化身として選ばれたのである。人ならざる力を持ち、霊峰ターゴンの敵を見つけては容赦なく排除するパンテオンが通った道には、屍のみが残される。

 

パンテオンとして知られる比類なき戦士は、何人も止められぬ戦の権化である。彼は、霊峰ターゴンの斜面に住む好戦的な部族、ラッコールの民として生を受けた。険しい山を登頂し、その真価を認められると、この世における戦の神髄の化身として選ばれたのである。人ならざる力を持ち、霊峰ターゴンの敵を見つけては容赦なく排除するパンテオンが通った道には、屍のみが残される。

アトレウスは、ラッコールの民の誇り高き若者だった。その名は、ラッコールでは“パンテオン座”と呼ばれる、夜空に浮かぶ戦士の星座を形成する四つの星のうちの一つに由来している。霊峰ターゴンの他の若い戦士たちと比べてとりわけ物覚えが早いわけでも強いわけでもなく、弓や槍、剣の扱いが特に優れているというわけでもなかったが、アトレウスは強い意志を持ち、ひたむきに鍛錬に打ち込んでいた。そしてなによりも、彼の忍耐力は仲間たちの間でも語り草になるほどだった。人々が未だ夢の中にある夜明け前に起床し、霊峰ターゴンの険しい道を走り込むのがアトレウスの日課だった。夜には必ず修練場に最後まで居残り、その腕は剣術の練習で鉛のように重くなった。

アトレウスは、もう一人の若いラッコールの民、パイラスという少年と激しく張り合っていた。有名な戦士の血筋を引いたパイラスは、技術も、力も、人望も持ち合わており、ゆくゆくは彼も偉大な戦士になるだろうと考えられていた。同世代の者で、パイラスに打ち勝つことができる者などいなかった。だがアトレウスだけは決して負けを認めようとせず、いくつものあざを作り、血を流し、何度打ちのめされたとしても、パイラスに戦いを挑んだ。これによりアトレウスは年長の教官たちの尊敬を勝ち取ったが、一方で彼のしつこい抵抗は、敬意に欠くとしてパイラスの恨みも買うことになった。

仲間たちから敬遠され、パイラスとその取り巻きたちに数えきれないほど叩きのめされても、アトレウスはそのストイックなまでの忍耐力でやりすごした。このようないじめは過熱する一方であったが、彼はこのことを家族には決して話さなかった。家族が心を痛めることをよしとしなかったのである。

ある冬の早朝、若い戦士たちと教官らが巡回に出ていた時のことである。彼らは、集落から半日ほど歩いた先で、焼け落ちて煙を上げるラッコールの前線基地を発見した。雪の上に血が広がり、死体がそこらじゅうに散らばっている。すぐさま退却が命じられたが、時すでに遅し――敵は、彼らに襲い掛かった。

毛皮と重厚な鉄の鎧をまとった異邦人たちが、雪の下から跳び上がった。冷たい光の中、連中の斧はぎらりと光った。若い戦士たちはまだ誰も訓練を完了しておらず、指導者たちはとうに全盛期の過ぎた白髭をたくわえる老戦士ばかりだったが、それでもラッコールの民一人が倒れるまでに敵数人が斬り倒された。しかし相手の数はあまりに多く、ラッコールの民はひとり、またひとりと減っていった。

パイラスとアトレウスのみが、ラッコールの最後の生き残りであった。二人は、背と背を合わせて応戦した。両者とも負傷し、血を流していた。この戦いも間もなく終わりを迎えるだろう。だが、その前に集落へ知らせに行かなければならない。アトレウスは蛮族の一人の喉元を槍で突き、パイラスはその間二人を斬った。それにより、わずかではあるが敵の包囲に隙を作った。アトレウスは、自分が敵を足止めしている間に、集落へ報告に行くようパイラスに言った。話し合う間もなく、次の瞬間アトレウスは敵に突進していた。パイラスは走った。

アトレウスは全力で戦った。だが、重い斧が彼の胸に振り下ろされ、ついに力尽きてそのまま意識を失った。

ふと、アトレウスは目を覚ました。てっきりそこは天国だろうと思ったのだが、彼がいたのは先刻倒れた山の上だった。太陽はすでに周りの山々の向こうへ沈み、アトレウスの上には新しい雪が降り積もっていた。手足の感覚はなく、頭はぼんやりとしたまま、なんとか立ち上がると足を前へと動かした。視線の先で倒れているラッコールの民の下へ移動してみるも、息のある者はいなかった。さらに悪いことに、道を少し外れたところにパイラスがいた。背中には、投斧が深く突き刺さっている。集落に知らせは届かなかった。

アトレウスは這うように、または転がるようにしてパイラスの脇へと身を寄せた。酷い傷を負っているものの、パイラスは一命を取り留めていた。かつてのライバルを肩に担ぎ、アトレウスは長い道のりを集落に向かって歩き始めた。三日後、やっとの思いで集落の外れまでやって来た。そしてアトレウスはついにそこで崩れ落ちた。

目を覚ましたアトレウスが見たものは、傷の手当てを受けたパイラスが自分を覗き込む姿だった。集落が無事であることに安心するのと同時に、ラッコールもソラリの長老たちも、ラ・ホラック騎士団を派遣してあの侵略者たちを捜索しに行かせなかったと知り、アトレウスは驚いた。代わりに彼らは集落に残り、襲撃の際に応戦できるよう備えていた。

その後数か月のうちに、アトレウスとパイラスは親友同士になっていた。以前の確執はすべて水に流し、二人は新たな活力と目的意識を持って鍛錬に打ち込んだ。その間、アトレウスのソラリの判断に対する憤りは膨らむばかりだった。彼の考えでは、ラッコールを守る一番の方法は、潜在的な敵を積極的に探し出して打ち砕くことである。だが、ソラリの戦士の新しいリーダーで、かつてはラッコールの民でもあったレオナは、別の形での防衛方法を説いた。アトレウスにとってこれは弱さであり、受け身すぎると感じているのだった。

他のラッコールの若者たちもそうであるように、アトレウスもパイラスも、霊峰ターゴンに登り、超次元的な力を手にした偉大な英雄たちの物語を聞かされて育った。ともに厳しいラッコールの戦士の儀式をくぐり抜けた二人は、自らも山を登ることを目指し、真剣に訓練を開始した。アトレウスは山の力を己のものとし、ソラリに代わって自らラッコールの敵を探し出しそうと考えていた。

もっとも強い者だけが山に挑戦することができ、そのうち1000人に一人も山頂を見た者はいない。だが、アトレウスとパイラスは山のふもとに点在するラッコールの各集落から集まった、大規模な登山団に加わることにし、山登りを始めた。彼らが出発すると、太陽は暗くなり、銀月がその前を通過した。これを凶兆だと言う者もあったが、アトレウスは、自身の目指す道が正しいと、ソラリに関し己が抱いている疑念が正しいという証であると解釈した。

登山を始めて数週間が経過した。登山団は、最初の半分ほどの規模になっていた。何人かは途中で引き返したが、他の者たちは足を踏み外して氷の裂け目に落ち、雪崩に飲み込まれ、凍えて命を落とした。今、登山団は雲の上にまでやって来た。空には不思議な光や幻想がたくさん舞っていた。それでも彼らは先へ先へと進んだ。

大気は確実に薄くなり、旅を始めて数か月になる頃には、寒さもこれ以上ないほど厳しさを増した。呼吸を整えようと足を止めた者はそのまま動かなくなり、その遺体は凍りついて山の一部となった。酸素不足と疲労に正気を失った者たちは、小石が転がり落ちるように、自ら崖へと身を投げた。一人、また一人と、山はそれを制覇しようとする者の命を奪い、最後にはパイラスとアトレウスだけが残った。

疲れ果て、骨の髄まで凍え、気が狂いそうになりながら、二人は山頂への最後の一歩を踏みしめ、ついに辿り着いた。そこには―― 何もなかった。

山の頂には伝説の都市も、彼らを抱擁で迎える天空の英雄もいなかった。そこにあったのは氷と、死と、奇妙に円を描きねじれた岩のみであった。すべての力を使い果たしたパイラスはその場に崩れた。そしてアトレウスは、ぶつける相手のいない苛立ちに吠えた。

パイラスには下山するだけの力は残されていない。それを悟ったアトレウスはパイラスの横に座ると、膝の上で彼の頭を抱き、友の命が尽きるのを静かに見守った。

その時、天空が割れた。空気はまるで液体のように煌めき、アトレウスの前で門が開いた。黄金の光があふれ出て、アトレウスの顔を暖めた。ヴェールの向こうには、想像を絶するほど美しい、壮大な建造物が並ぶ都市が見える。そこに立つ人影が手を伸ばして、アトレウスを待ち受けていた。

畏怖から流れた涙がアトレウスの頬をつたった。アトレウスは友を連れて行こうとしたが、己の腕の中のパイラスに目をやると、彼は至福の笑顔を浮かべて、息絶えていた。アトレウスは立ち上がり、親友の目を閉じると、彼を溶けかけの雪の上にそっと横たえた。アトレウスは導き手のほうへ、“真の”ターゴンへ、現実のヴェールをくぐって行った。

数か月が経過していた。山の下方では、登山に挑戦したアトレウスやパイラス、そして他の者たちも全員死んだと考えられていた。人々は彼らの死を嘆いたが、そのこと自体は予想外でも何でもなかった。山の頂上から力を授かって帰って来る人間は、ひとつの時代に一人だけであろうと考えられていた。

北方から来た蛮族の略奪者たちが再び、また不可思議に山に現れたのはこの頃――彼らが前哨基地でラッコールの民とアトレウスの同志たちを虐殺したあの日から、およそ一年が経とうという時であった。略奪者たちは、孤立した集落を次々と襲い、殺戮と略奪を繰り返し、ついに山の上方にあるソラリの寺院まで押し寄せた。衛兵の数は圧倒的に劣勢であったが、ソラリの遺物やその中の神秘を守ろうと命を懸けて抵抗した。

敵の略奪者たちが迫る中で、不自然な風が、うなり声を上げながら吹き荒れ始めた。風は雪を巻き上げ、激しさを増した。渦巻く雲が割れ、その中心に聖なる霊峰ターゴンが姿を現す。両陣の戦士たちは吹きつける雪嵐に吹き飛ばされないように耐えた。氷雪から手で顔を守っていた彼らが指の隙間から見たものは、山の頂の天上に現れた、揺らめき、光を放つ都市だった。

パンテオン座の四つの星がいっそう明るく瞬くと、その光は頭上で消えた。それと並行して、天の都市から燃えさかる流星が現れ、地上まで光の線を描いた。

流星は、驚異的な速度で、叫び声をあげながら寺院に向かって落ちてくる。略奪者たちは己らの異教の神々に、震える声で祈った。流れる星は対立する二つの勢力の間に、大地が割れるのではないかと思うほどの衝撃と共に落ちた。

それは、流星などではなかった。星の光を纏い、輝く黄金の盾と伝説の槍を携えた戦士であった。片膝を地面につけた戦士の構えで着地すると、彼は霊峰ターゴンを穢す敵を見上げた。ラッコールの民は、これがアトレウスであると悟った。だが同時に、それはアトレウスではないということも理解した。戦士の神髄を受け継いだアトレウスは定命でありながら不死身でもある、戦の権化となった。今の彼は、戦争の化身そのもの。アトレウスは、パンテオンになったのだ。

目に天の光を灯し、パンテオンはしゃがんだ態勢から立ち上がった。その瞬間敵は、死を覚悟した。

戦闘は一瞬で終わった。パンテオンに立ち向かうことができるものは一人としていなかった。パンテオンの鎧と武器についた異邦者の血は流れ落ち、また元の星の光を放ち輝いていた。敵が死んだことを確認すると、パンテオンはうなる嵐に向かって歩き出し、姿を消してしまった。

アトレウスの家族は息子の死を悼み、葬式を出した。山から帰らなかった時点でその死を覚悟していたものの、今やアトレウスの死は確定された。パンテオンの神髄は、彼の人格も記憶も感情も消し去ってしまった。アトレウスの肉体は超自然的な戦の神髄の器でしかなく、彼の人間としての魂は、天上の祖先たちの魂の元へと召された。

ルーンテラにおいて、パンテオンが人間の姿で地上に降り立ったのはこれが初めてではない。以前にもこうしたことはあったし、これからも起きることだろう。彼らは決して不死身ではなく、器である人間の肉体としての限界があり、非常に困難なことではあるが、殺すこともできる。パンテオンは神の祝福であると同時に呪いでもあると考えられており、最近の出現についてソラリの長老たちは慎重に話し合っている。パンテオンの出現はしばしば、やがて来る暗黒の時代の先触れとなることがあるのだ……